7.おわりに

更新日:2021年04月01日

獅子の被り物

八月踊りで古典踊りや組踊りの演技は、首里を中心とする沖縄島のそれとは格段の相違があり、野趣で優美に欠けていることは、多良間島の習俗や土着の芸能の影響もあって、中央と異なった伝統をなして今日に至っている。

組踊りや古典踊りの歩行が爪先を殆ど直角に立て踵を上げ、その足先を前へ出して少しひいて踵を起こし、他の足を同じ要領で繰り返す多良間様の運歩であること。

接司その他の男役で、登場して正面になおると、脚を開き、腰を大きく落とし、伸び上がって身えを切ること。
ツレや供の役で、やはり両脚を開き、両袖を左右へ一杯にひっぱって地面に水平に上げること。
男役が、2人あるいはツレを含めた2組で向かい合って議論し、詰め寄るところで立膝して左脚を中心に、何れも身体をブルブル震わせること。

以上のことは、多良間の古典踊りや組踊りの特徴といえる。専門家のなかにはそのような点を取り挙げて、首里風と比較し、多良間様を批判している者もある。

また、専門的訓練を経た都の芸能と、半ば素人の演技である多良間島の芸能とには、一般的にいって洗練と粗野との相違があることは争えない。何れにしても多良間島の芸能は首里伝来の芸術を伝承しただけではなく、むしろ、伝承の過程でその演技や演出を切り替えていったのであり、辺境離島の芸術を首里文化の鄙俗化、下降としての側面だけから評価しようとする枠組からは到底とらえられない創造力を噴出させていると評価する専門家もある。要するに、八月踊りは、長年絶やすことなく持ち続けて来た伝承文化である。多良間島の人々にとっては、心の古里として生きる明日への活力でもある。これからも全住民のものとして保存に努力し継承していきたいものである。

渡久山著